どろぼうの名人

どろぼうの名人 (ガガガ文庫 な 4-1)

どろぼうの名人 (ガガガ文庫 な 4-1)

自分の周囲のいわゆる本読みを自認する誰もが見落とすであろうと予測し、事実見落としていることに意地の悪い笑みを浮かべつつ、この一冊をお薦めする。


ぶっちゃけて言うと、百合である。
ただし、昨今世間に敷衍しているような質の劣化した「お姉様!」な百合でもなければ、レズビアン・ポルノでもなく、ナオコサンな百合でもない。
明治後半から大正、昭和初期に現実として文学として確かに存在し、いまや失われつつある正しき百合のカタチを受け継ぐ、正統にして、純粋な小説だ。


著者の中里氏は、本が出る前から注目していた書き手で「この人は近々表舞台に出てくる」と思っていた。
ご本人はどう思われているかわからないが、これは知識ではなく教養によって書かれた娯楽(エンターティメント)だ。
そして、その味は甘美であり、もどかしくも切々とした愉悦を読者に与える。期待通りだった。この愉悦、昂奮。それこそが、小説という媒体を最大限に生かした証左であろう。

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