壱九四五『灰かぶりと亡霊たち〜凡庸な戦争記録の欄外註 初稿』

 はじめに断っておきますと、自分がゲームの感想を書くというのは極めて稀なケースです。
 ぶっちゃけ、最初はあんまり期待していませんでした。
 それというのもこれの前にやったノベルゲーでのダメージ*1があったのと、そもそもSTG以外のゲーム自体やらなくなって久しいので、見落としていました。
 ところが、ニコニコ動画体験版動画を見てみたら面白い。
 それ以前に配布されていた体験版を見つけることができたので、プレイしてみたところ、これもまた面白い。それでも、しばらく間を置いて手元に読む本が無くなった頃にダウンロード販売で購入しました。

 絵の綺麗さに目を奪われがちですが、この世界を「向こう側」と定義した別世界は魅力的でしたし、皮肉と諧謔が交じり合う軍事色の濃い不思議な愛憎の物語でした。思っていたよりも尺が長く、正直終盤はどう落とすかはらはらしていたのですが、オチもちゃんとしっかりつけていて満足。
 ただし、私はこのゲームをあえてはお薦めしません。

 軍事色の強い話(架空戦記など)が本当に好きなひと。
 オカルト系の話が本当に好きなひと。
 シンデレラと聞いてディズニーではなく原作『灰かぶり』が先に浮かぶひと。
 東欧、特にチェコ民話やロシア民話が好きなひと。
 笑いによる楽しみをギャグではなく、ブラックジョークや諧謔味に求めるひと。

 このうち、どれかが該当するのならば、お薦めします。
 特に架空戦記が好きなひとは、迷わずカクタチャージの勢いでやるべし、です。
 作者、八幡絢さんのサイトはこちら

 以下はちょっと内容に触れるので格納。

 最初から、そうなるだろうと予想していたのですが、ローエングリン兄妹が気に入りました。
 アリス最高!
 端から見れば、傲岸不遜で狂っているように思われるキャラでしょうが、彼女はすこぶる正常です。もちろん、アリス自身の基準において。
 これってとても重要なことで、アリスはアリスなりの信念と自分と他者との落差を理解した上で、一般的な価値観や通念を「くだらないもの」と切り捨てています。
 感情表現が豊かなので惑わされがちですが、精神は今作での最常識人であるペトラスや気の利く伍長、別の意味でちょっとずれている兄ノエルと同程度に安定しています。
 ノエルとアリスの兄妹は、それぞれ独自の価値観を持っていて、それが社会で通じないことを理解していながら無視しています。
 兄ノエルは「そうしたものに興味がなく、特に主張したいことがないのでしない」ので、軍人として組織に属することができます。しかし、妹アリスは自分の価値観念が最優先し、常に最上位あるので結果として、完全に独立した存在になっています。
 他者を見下しているわけではないんです。
 自分の価値観念が最上位にあるのが当たり前なので、それ以外の価値観が自動的に下位になってしまうわけです。
 カレルとの初対面のときの台詞も、彼を莫迦にしているわけではなくて、彼女の目にはそう見えるから「素直に言った」だけのことなんだと理解しています。
 ぶっちゃけ狂っているわけなのですが、病んではいなんです。
 本人は極めて正常です。
 世間の常識に照らし合わせると、狂っていることになってしまうんです。
 ゆえに、他のキャラよりはるかに精神は安定しているので、ちょっとやそっとじゃ動揺しないのはそのためです。
 そんなアリスですが、彼女の価値観を理解できれば、まともに会話することができます。実際にペトラスは初見で「ああ、このお嬢様はそういう人なのだ」と見抜いたため、なに食わぬ顔で「麗人」対する「もてなし」を行った慧眼の持ち主ですね。
 こういうキャラは大好きです。
 極端すぎますけど、これって人間の多様性に秘められた可能性を表現していると思うからです。
 そういうところを感じて、アリス最高と書きました。

 あとそのペトラスも良いです。
 人物そのものは当然ながら、軍人……特に下士官としての手腕は、間違いなく最高峰でしょう。
 必要なモノを必要なときに出せることと。特に、輜重《しちょう=食料や武器弾薬》管理能力は目を見張るものがあります。

*1:ギリシア喜劇的デウス・エクス・マキナ的終わり方という感想は、非常に遠回しな酷評です