『絶対移動中vol.15 猫とにんげん』絶対移動中

 前回に引き続き、選り抜きですが感想を書きます。


業平心「ヤンとラッシー」
 読めない。業平さんが読めない。これまでの作品とは、まったく印象の異なる作品だったので、内容よりも今回の作風が意外でした。
 1977年という時代背景に対して実感が全く湧かない(ついでに昭和53年にはまだ生まれていない)のですが、肌感覚がどことなく現代のそれに近いと思いました。
 これから新たな展開がありそうな予感がしたところで、なんの違和感もなく、すとんと終わる。そうした意味では、すっきりした小説。
 猫がまさしく人間の間にいた、と感じさせられた作品でした。


添田健一「雪児」
 北宋の中国を舞台にした作品。驚くほどに読みやすく、猫が不在にもかかわらず猫の存在を極めて強く感じさせられました。視点となる若い女性の性格が反映されているとはいえ、物の見方が優しく、そこにいた猫がどんな存在だったのかが伝わってくる作品でした。
 当初、黄山谷が誰かわからずちょっと恥ずかしい思いをしました。もっとも、単純にど忘れしている可能性の方が高いのですが(苦笑)。
 収録作品の中では、最も好みの作品でした。


伊藤なむあひ「おはなしは夜にだけ」
 なむあひさんの作品は、相変わらず謎です。奇をてらっているわけではないのがわかるだけに、どこかしら奇異な気配が漂う作品なので困惑します。個人的には、猫たちをあのように称されると長野まゆみ作品を思い出してしまいます。
 時系列の最初と最後が繋がっているのかいないのかが、確かめる術がないので、個人的には確定した答えを出さないままにしています。
 過去2作でも、こうした読者の想像の余地を残す書き方をされるひとでしたが、これはその点では大成功ではないでしょうか。


山本清風「猫にかまれて」
 最も笑った作品。滑稽さ、諧謔味、そうしたものが詰まっていて、どこか旧時代的(良い意味で古くさい)なのも印象的です。初めは端役に思える猫が、じつは主役であったと最後になって気づかされるのも面白かったですね。
 ところで、会場でお会いしたその日の作者本人とイメージが重なるところがあり、それが意図的なものだとしたら見事に罠にはまったやもしれず。
 収録作品の中で、文句なしに最も楽しめた作品。


伊藤鳥子「ボスとおっさん」
 猫と生活するというのは、こんな感じなのかな、という実感が最も伝わってきた作品です。あと、それがなんであれ環境が変化すると、そこにいる人間に影響を与えるというポイントをしっかり抑えているのも好印象でした。
 ただ一点、最後の最後で、主観視点がおっさんから切り替わり、そこで終わってしまうため尻切れトンボな印象を拭えないのが残念でした。まるで、その先があるのにばっさり切り落とされてしまったよう。おっさんを返して(笑)。
 収録作品の中では直球ですね。


秋山真琴「猫と猫との生活について」
 最後の12がなければ、よりSFらしくなったのに、と思ったのですが、そこでお話しを閉じないのが秋山さんらしいかも、とも思いました。なんだかんだで、結構彼の作品読んでますからね、私。
 図版(挿し絵ではない)が効果的に使われており、この辺りはプレゼンやボードゲームでのインストール経験が反映されているのかなあ、と邪推もしたり。
 この図版が本文を読み進めるうちに、ちょうど良いところに配置されており、そうした地味ながら緻密な計算の上に成り立っているところは、さすがと思いました。
 収録作品の中では変化球だと思います。


有村行人「猫の王、眠りに眠る」
 題名から、すわっファンタジーか、と思ったのですが、ありそうで無いでもあるかもしれない、という空気を匂わせるおいしさがありました。
 現状、有村さんの作品を読むために「絶対移動中」を買っていると言っても過言ではありません。なぜかというと、舞台設定や登場人物の多寡を問わず視野が最も広く、作風にぶれない統一性があるので安心して読めるからです。
 カメラに喩えると、私とは違うレンズを持っているひとで、私の知らないレンズの使い方を知っているひと。そして、どういう使い方をしているか私が理解できるやりかたで見せてくれるため、勉強になります。


 以上です。



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