片倉青一『人形たちのサナトリウム(第1章~第3章)』ノベリズム

novelism.jp

 この一見すると中途半端な区切りは、第3章までが過去配信されたKindle版の1巻収録分に相当するためです。

 作品公開状況については、上記ノベリズムのリンクか作者の片倉青一さんのTwitterアカウントを参照してください。

 

※2022年3月9日追記

 Kindleが復活していたのでリンクを貼っておきます。個人的には、Kindleの版型の方が読みやすく感じました。

 

 

 

 Twitterで簡潔に「読了。面白かった。」とツイートしましたが、じつはあれには続きがあります。それを書くならこのタイミングを待った方がいいと思い、先月読んだ本の感想記事を今月書いています。

 

 前置きおしまい。

 

 読了。面白かった。

 人の姿をした人ではない物の精神面—有り体に言えば心のありかた—について踏み込むと、哲学を語られがちなので途中警戒したのですが、既存の—前提となる論—を咀嚼した上で書かれていたので、純粋に物語を楽しめました。

 なぜ「警戒した」のかと言えば、哲学が関わるのはわりと自然なことなのですが、そこから哲学論が展開されてしまい本筋から外れたまま進行する物語が苦手だからです。

 

 映画『イノセンス』で話題が捜査から大幅にずれると、トグサが「そろそろ仕事の話をしないか」と釘を刺しますよね? 作中でそうした軌道修正がされないまま進行して、読者が釘を刺したくなった経験があるのです。その手の作品はジャンルや題材、表現手法問わず〝No thank you and Not for me〟なのです。

 

 それはさておき。

 

 

  ガラティアさんが初めてバンシュー先生の診察室に入ってきたとき、「どうして人間 様が当院に?」 と、 いささか混乱しました。

 

   片倉青一『人形たちのサナトリウム』第1章「シティ・ダルムシュタットの花嫁人形」

 

 

 ハーロウの慇懃《いんぎん》な——良く言えば丁寧な語り口の——一人称で進行する物語は、話し言葉に近いため読みやすく適度に小生意気なので、サナトリウムという言葉から想起される暗い雰囲気はありません。

 

 

 どこまでも人間くさい顔かたちのガラティアさん。
 見た目だけではありません。何かしら体を動かすたび、体幹が左側に傾きます。右足が弱いのか、三半規管《ジャイロセンサ》に不調でもあるのか。
 病気、という表現も普通ではありません。人形なら「故障」と言うはずです。
(中略)
 やっぱり、人間様なのでは?
 一方で、難渋を示しつつもバンシュー先生の言葉に従ったあたり、人形らしさもあります。特に、合理的な判断を提示されると人形は反論できません。市民権をお持ちの人間様なら、もっと感情的に権利を振りかざすでしょう。
 うーん。

 

   片倉青一『人形たちのサナトリウム』第1章「シティ・ダルムシュタットの花嫁人形」

 

 

 ハーロウの小生意気さも、直面するあらゆる事態を他人事として読む人間であるところのすなわち読者からすると小気味よさすら覚えます。

  彼女の製作者であり人形たちの医師でもあるバンシューは、〝ちょいワル親父〟とキャラクター紹介にありますが、有り体に言えば傲岸不遜な男なので〝子は親に似る〟を地で行っているのでしょう。

 私としては、ハーロウのこの生意気さとバンシューの不遜さが気に入ったので、上記の理由から恐々と読み始めました。

 

 特に面白いなー、と感じたのは、第2章「シティ、カシマの鍛冶人形」でして、ゲストキャラのマヒトツの濃さもさることながら、彼女と動かなくなった助手のロボット(人工知能は有するが純粋な人型作業機械)ダイダラが鏡としての役割を担っていたところですね。

 単純に物を作ることや刀がが好きだからでもあります。

 

 本作。暗い雰囲気はありませんが、舞台がサナトリウムであり主人公は看護人形なので、そうした場であり得るグロさには容赦がありません。これは、グロテスクさを演出した結果ではなく、当然の帰結としてグロテスクな面を見ることになるためでもあります。


 もっとも私は、この世界の人形は、身体を構成する〇〇〇〇(ネタバレ伏せ字)を不活性化したら、工学的に調整(隠語)できるのかな? と考えてしまうような人間なので問題ありません。ゾンビ映画スプラッター映画は苦手なのに……。

 

 与太話はさておき、第3章「シティ・プロヴィデンスの悪夢」では、人形のガワをまさにガワとして描写したシーンがあって、これはいまだからこそ響く描写であるとも思いました。

 そして、これについては第1章からずっと描かれているだとも気づかされました。

 

 個人的に、いまが旬の作品だと思ったので、ブログに記事を書くことにしたのでした。

 続きが楽しみです。