『絶対移動中 Vol.13』雑感

 あ、文芸同人誌の感想を書くのは初めてかもしれない。

 それはさておき。

 このラインナップならば『白雪姫前夜』が大賞となるのは、当然の帰結といっても差し支えないと思いました。なぜなら、ずいずいと読者を引き込んでしまう作品の完成度もさることながら、発表場所が同人誌だからです。
 同人だから書けるものを書いた作品でもあると思います。
 そうした中で、感じたこと思ったことは、例の歌詞に全部込めたつもりです。

 さて、この他の作品で気になったものを、私も3作挙げてみようと思います。

 一つ目は、松下繭さんの『スローバラード』です。
 少しばかりネタバレになってしまいますが、電波について「彼・彼女がなぜそうなったのか」読者に納得させるだけの理由を描いている作品は、驚くほど少なかったりします。
 選評の中で村上春樹の名が上がっているのですが、あえて既存の作家を引き合いに出すのなら佐藤友哉では? と思いました。秋山さん(id:sinden)が選評会で言っていたかもしれませんが。


 二つ目は、高村暦さんの『新しいノートを買わなくちゃ』です。
 空行はあるものの、改行がきわめて少なく、文字が詰まっています。それにもかかわらず、すらすらと読めます。読まされてしまいます。このテンポの良さと「自分はなにか見落としたのでは無いだろうか?」と思わされてしまう妙味も好みでした。
 また、秋山真琴賞のこの作品は、「秋山さん、好きそうだなあ」と納得しながら読んでいました。

 三つ目は、業平心さんの『名前のない明日』です。
 ただ、ごく個人的にどうしても無視できない違和感がありました。それは、一人だけ名前が出てくる登場人物がいることです。
 続き物と作者コメントに書いてあり、前号は読んだことが無いのですが、読んでいても同じ事を思ったでしょう。題名に『名前のない〜』とあることも含めて、茫漠とした無貌の雰囲気がただ一つの固有名詞に阻害されていたのが残念でした(※)。
 作品に漂っているこの雰囲気は、『絶対移動中』に合っているとも思いました。
 すべての号を読んでいるわけではありませんが(苦笑)。

 ※私の場合、登場人物の名というものを書く側としても読む側としても重視するため、別のひとが読めばそういうマイナスは無かったかもしれません。


追記:業平心さんからコメント戴きました
ncocoro 2013/05/29 17:45 拙著の感想をありがとうございます!品評していただくのはとても嬉しい限りです。蒼桐さんの言葉に新しい気づきがありました。それをヒントに次へ進もうと思います。Thanks a lot!!!