絶対移動中Vol.14 特集:異界 マヨイトあけて

絶対移動中vol.14 マヨイトあけて

絶対移動中vol.14 マヨイトあけて

  • 作者: 秋山真琴,有村行人,伊藤鳥子,伊藤なむあひ,加楽幽明,くりまる,高橋百三,業平心,三糸ひかり,蜜蜂いづる,宵町めめ,よしくによし,涌井学,志方尊志,囲寂ゆう,radicalOta
  • 出版社/メーカー: 密林社
  • 発売日: 2013/11/04
  • メディア: 雑誌
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 表紙をめくると、まず「マヨイト」という言葉とこの特集について1ページ解説が載っています。これによれば、「マヨイト」というのは、宵町めめさんが「マヨイガ(マヨヒガ)」から連想した造語なのだそうです。意味としては、境界を越えて異界へ入る扉とのことで、鳥居や四つ辻と相通ずるものですね。西洋にならば、野原の穴とか大きな姿見鏡など、そして洞穴(特に遺構)でしょうかね。
 この解説のページをめくると、目に入るのがこの作品。

宵町めめ『四ページ目の真代子』
 題名は掛詞なのかな。音読してみるとイントネーションによっては「四ページ目の真横」とも受け取れるから。実際そのページのレイアウトがどうなっているかというと“そう”なっている。。さらに想像を広げてみれば、ページの外側、すなわち本の外側は?


 個人的に、異界を描くには境界が不可欠である、と考えています。そこで、今回の感想は、それの基づいた上で、特に気になった三作品の感想を書いてみました。
 並びは収録順、敬称略です。


涌井学『外に出ようとする男と女』
 この小説で不思議なことは何一つ起こらない。
 異界という言葉が醸し出す奇怪や不思議といった印象から離れて、いまもどこかにあるかもしれない「そういう世界」を描いた作品。社会性が非常に強く、実はそれこそ異界という別の世界を描く上で必要な基盤だと物語っている。家の中と外という最も身近な境界の描き方も、一貫性があって完成度が高い。 そして、ここで描かれていることは、現実に起きえる可能性が十分にあるということだと思う。これに対して疑問を持つ人は、そもそも個人がそれぞれに世界を持っている、ということを考えてみて欲しい。
 ごく個人的に、裏付けも理由も説明もなく「世間一般は云々、普通は云々」を散々に押しつけられてきたので、最初から最後まで現実に存在する異界を描いた小説として読んでいた。


伊藤なむあひ『鏡子ちゃんに、美しい世界』

 発想そのものは、そう奇抜ではないけれど、作品世界への引き込む力が強い。後半、ここで描かれていることを理解できない他者が出て来るのだけど、この反応には心から納得した。理解できないものに直面したときの反応は、いくつかあるけれど、その中に「自分勝手な解釈で曲解し結論づける」というものがある。特に、子供に対して親や教師が持ちやすい判断のひとつなので、にやにやしていた(底意地が悪い)。
 ただ、起承転結の結がないまま終わる感があった。というのは、最後の行動が一体何に繋がるのか想像するだけの要素が足りなかったから、だと思う。


有村行人『哲学さんと飛ぶ』
 ぶれがなく安定した文章で、落ち着いて読める作品。あえて言うならば、異界の住人を描くことで異界を描いている。
 あっちとこっちは異なるものの、互いの存在を認識でき意思疎通は取れる。しかし、触れることはできず、在り方の違いが両者を隔てている。主人公の生活や他者との接触を描くことで、こちら側の世界(社会)がくっきり表れるので、哲学さんの異質さが浮き立つ。
 異界を描く上で最も重要な「境界」を、さらりと書いている作品。


 あと、印象に残った作品が一つあるのですが、私の脳内書架では、SF棚に配置されるため、これは番外編。


業平心『SIX』
 見方によってはナンセンスな終わり方であり、内部だけで完結しているように感じるものの、実際それは閉鎖された内側の出来事を描いたものだからだと思う。
 SFと先に書いたのは、サイエンスな側面が非常に強く、作品の性質を表していると感じたため。そのため、どうしてもSFという印象が先立ってしまい「境界」の意味が社会学民俗学ではなく、物理学や工学からの見方になってしまう。ひと言で言えば、論理的。
 

 最初に常体で書いていたたため、他の感想も文体を統一しました。しかし、なんとなく偉そうになるのがいかんともし難いところですね。