『零合 創刊号』零合舎

 

 読了。百合小説専門雑誌ということで読んでみた。とんがった作品が多く、人によっては刺々しく感じてしまうかもしれない。

 序文にあるとおり、読者が主体的に百合を見出して読むのではなく、あらかじめ百合と題している作品を商業小説誌で読む読書体験はたしかに新鮮だった。その上で、個人的な尺度に照らしてどの作品も確かに百合小説たと感じた。

顎木あくみ『わたしの幸せな結婚 七』富士見L文庫

 

 むずかゆくなるくらい甘い7巻。タイトル回収してこれで完結か……と思いきや新たな展開を見せる本編にまだまだ目を離せない。

 不安の煽り方と煽った分の解消の仕方が上手いので、不幸イベントが起きてもストレスなく読めると思う。

 コミックスをちら見して以来、「香耶はあれで退場はないだろう」と思い、アニメを見て「香耶はまた絶対出てくるよね」と思いを新たにし、七巻を読んで「香耶との再会イベントが合ったら面白いだろうな」と感じさせられた。

 アニメは母にもおおむね好評である(母から勧められてこのシリーズを読み始めた私)。

 

 

『アステリズムに花束を』ハヤカワ文庫

 

 

 アンソロジーの良いところは色々な作家の作品をつまみ食いできるところだと思う。

 過半数の作品が『SFマガジン2019年2月号 百合特集』からの収録なので、初見の作品は2作(『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』短編版はnote公開時に読んでいる)だったが、結果的には買って正解だったと思う。そうでなければ、陸秋槎を読む機会はまた先延ばしになっていただろうし。

篤見唯子『スロウスタート11』芳文社

 

 内容たっぷりの11巻。連載開始から10年だそうで、一つ一つの出来事をじっくりゆっくり描けるのはやはりすごいなと思った。

 描いている出来事もちゃんと絵になる瞬間があって、それをしっかり捉えているのが読んでいてわかる。

 どきどきスイッチする視点の切り替えによる景色の見え方の違いも上手くて、主観(エピソードの主役)が変わるとちゃんとそのキャラに沿った描き方(見せ方)になっているのもこの作品の長所だと思う。

 本棚に11巻並ぶとなかなか壮観だね。

小野寺こころ『スクールバック(1)小学館

 

 とっさに作る笑い、言えない本音、押し殺してしまう声、そんな高校生活(学内外)の中にある理不尽との葛藤を丁寧に描き出して、それでいてくすぶったまま終わらせない構成の巧みさを感じた。

 視点の切り替えも上手くて、それぞれのエピソードの主人公を明確にしつつ伏見さんの視点をちょいちょい織り交ぜて、その時々の問題を俯瞰できるので心情と背景事情をとらえやすくなっていると思う。

 なにより伏見さんが非常に愛嬌があって魅力的なので、小さな変化を追ってしまう楽しさがある。

 おすすめです。